勤務医のたそがれどき

勤務医も歳を取ったら徐々に「小さな仕事」に。働き甲斐も大事。

現在、自宅から山の上の方にある小さな病院まで1時間弱の道のりをイカー通勤している。その間は、ポッドキャストかオーディオブックを聞いていることが多い。

ポッドキャストの一番のおすすめは「日経メディカル聴く論文」。他はあまり長く聞き続けているポッドキャストはない。出たり入ったりだ。New England Journal of Medicineなどの英語のポッドキャストを聞こうと頑張ったこともあったが、気力が衰えたせいか、やめてしまっていた。

根がケチなので、オーディオブックは「聴き放題」の本を聴いている。「聴き放題」を選んでいると、本屋では絶対自分からは買わないだろうなというラインナップになるが、ほとんどの本が面白い。物知りになったような気になる。そのなかで最近参考になったのが、坂本貴志著「ほんとうの定年後「小さな仕事」が日本社会を救う」(2022年8月20日発行)。

余談になるがこの本の著者はその紹介文をみると1985年生まれのリクルートワークス研究所研究員と書いてある。私が社会人になった年に生まれた人が、私や私より上の世代の老後についてデータを駆使して的確に指摘している。書かれていることは、その通りだと思う。恐るべし、リクルート。大西康之著「起業の天才!: 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男」(2021年1月29日発行)(これもオーディオブックで聴いた)でリクルートについて知ったばかりで、いまどき優秀な人は情報産業に行くのだと痛感した、というか、感心した。

本題に戻る。

この本「ほんとうの定年後」では、60歳の定年前後に一般的な労働者(経営者とか自営業者と違うという意味で)にどのような変化が起き、どのように対処しているのかを示し、そのうえで、どのように労働者と社会全体が変化していくべきなのかを論じている。

公立病院の医師の定年は、大体が65歳で、私の場合、定年とは違うが、60歳で転職した。同じような状況と考えてよい。

ここで筆者は、以下のようなことを述べている。

『定年前までは、基本的に能力は伸び、それに合わせて仕事の量や責任などが拡大する(給料は、一般的にはそれに合わせて上がっていくわけではない)。そして、定年前のある時期に これ以上の昇進がないことを自覚する。または、自分がもうこれ以上昇進したり、多く稼げるようになることを望んでないことに気付く。

そして、定年を機に状況は変わる。定年後の就職・就業に成功する人たちは、これまでとは違った価値観、生きがいや社会への貢献を求めて職を選ぶ。そして、体力や気力に合わせて、より「小さな仕事」に移っていく。収入は、定年を境に大きく減るが、出費も減っている時期になるので問題はない。社会的にもこのような「小さな仕事」を行う労働者が尊重され、そこで働く人が喜びを感じるようにしなければならない。』

これが、私の場合にも見事に当てはまる(身分や給与の変化は違うが、精神的な面で)。前の病院を退職する60歳までは病院内での役職が増える一方で、部下と呼べる人たちが増え、その人たちの責任を取ったり、後ろ盾になってやったり、調整役になってやったり。その中で自分の診療科の業績も伸ばしていかなければならない。数年に1回しか出せなかったが、論文も作る(これは一種の趣味だったが)。研修医に教えることも大事な仕事なので、自分の診療領域の最先端の知識を維持しなければいけない(そうでなければ論文も書けないし)。そして好むと好まざるとにかかわらず、院内の出世競争に巻き込まれる。患者をよくしようという目標はあるが、社会全体に貢献しようとか、社会を良くしようというよりは、どちらかといえば、個人的な目標であり、自分やその仲間となった人たちの院内における居場所の確保のために働いていたのだと、今は思う。そのなかで、たぶんこれ以上エラくなることもない、これから定年までの5年間をこの病院に尽くすのかというネガティブな感情も芽生えていた。そして機会があり、転職した。

そして、状況は60歳の転職を機に大きく変わった。職位(?)は幸いにして上がったが、責任とストレスは前の職場と比べて明らかに少ない。何かをしようとしても、根回しや説得なんてほとんどいらない。患者も助けなければいけない重症の患者はよその病院に頼めばいい。
しかし、町民や地域に対する役割の重さは理解している。転職して2~3年経って理解するようになってきたというべきかもしれない。そしてこの役割を果たしていくことが、病院を守ることであり、地域における雇用にも寄与できることなのだ。これはストレスではない。社会に対する使命だ。

ここまでは「ほんとうの定年後」のシナリオ通りだ。

そうすると、第一段階はそれでいいとして、次のことも考えていかなければならないことも明白だということだ。体力・気力が衰えていった先にどのような人生設計を立てていくのか。

前の病院長が定年を70歳まで引き上げていってくれた。なにか問題が起きなければ、70歳まで現在の身分で働き、そのあとも、前院長と同じように、迷惑にならない間は、この病院でアルバイトさせてもらおうと考えている(アルバイトに来たがる医者もいないだろうから)。しかし、どこまで気力が持つだろうか、通勤のための運転はできるだろうか。

幸いなことに、「ほうとうの定年後」にあるようにまったく別の職業に就くことまでは考えなくてよい。この病院に転職した際 医学全般を学びなおす必要はあったが、同じ職業内のことである。これからさらに年をとっても同じだ。専門職の特権である(この病院にアルバイトで来ている高齢のドクター達を見ていると、それも問題があるように思えるが)。

ひとまずは、気力のあるうちは、世の中のために頑張る、人任せにしない、でやっていこうと思う。老後への対策についても追々述べていきたい。気力・体力が衰えていくにしたがって考え方も変わっていくかもしれない。

ブログをいくつか更新したあとの ブログ開始にあたっての所信表明であったりする。

メトホルミンはコロナ後遺症を抑制する。

メトホルミンファンにとって待望の論文が6月8日に出た。これがLancet (infectious diseases)に掲載されているのを確認した日の翌日は興奮で朝4時に目が覚めてそのまま眠れなかった。

COVID-19の患者にメトホルミンを投与すると後遺症の発現が抑えられるという論文。

メトホルミンは言わずと知れた糖尿病治療薬。これ単体で用いている分には低血糖の心配はほぼない。アメリカ糖尿病学会ガイドラインでは、虚血性心疾患、心不全、慢性腎臓病合併の場合以外の第一選択薬であるが、日本では、乳酸アシドーシスのリスクがある、造影CTができないなどの理由で何となく嫌うひとも多い。「ビグアナイド薬の適正使用に関する委員会」というところから「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation」なる注意喚起文書も出されている。
それに糖尿病薬を出すというと 一般の人たちはメトホルミンでなくても嫌がる。

一方で、デビッド・A・シンクレア著「LIFE SPAN(ライフスパン): 老いなき世界」で長寿薬として紹介されてから、個人輸入してのむ人も現れた、今一部の人の間で人気の薬でもある。まずは論文に行く前にこの本で紹介されているメトホルミンに関する記載内容から。

『メトホルミンはAMPKを活性化させることにより。NAD濃度を上昇させる。
  ↓
サーチュインなどの老化への防御機構全体を始動させる。
  ↓
エピゲノム情報が失われるのを顕著に遅らせる。
  ↓
あらゆる器官が若く健康でいられるようにする。

メトホルミンは血液細胞のDNAメチル化年齢を1週間で若返らせる。折り畳み不全のタンパク質を除去する効果がある。癌細胞の代謝を抑える。
ごく少量のメトホルミンがマウスの寿命を6%延ばす。
メトホルミン服用者では、認知症、心血管疾患、ある種の癌、虚弱、うつ病のリスクが低下する。』

そのほかにも現在でも多くの研究が行われており、神経系に関しては:マウスにおいて、AMPK活性化により、老化した髄鞘前駆細胞の分化能を回復させ、傷ついた髄鞘の再生を促進する効果、老齢マウスにおいて脳の血管や神経の新生を促進し、炎症を抑制することによって認知機能を向上させる効果、なども報告されている。

そのほか多くの臓器の炎症抑制、老化の抑制についての研究がある。呼吸器領域でもCOPDの進行抑制効果があるのではないかと研究している人たちがいる。

論文は:
Carolyn T Bramante et. al. Outpatient treatment of COVID-19 and incidence of post-COVID-19 condition over 10 months (COVID-OUT): a multicentre, randomised, quadruple-blind, parallel-group, phase 3 trial. Lancet Infectious Diseases. June 08, 2023

Preprintの段階から話題になっていた。COVID-19専用の抗ウイルス薬がすでに市販されていて、メトホルミンなどの一般薬の急性期COVID-19に対する効果についての関心は薄れているが、多くの人が悩まされているコロナ後遺症をどう治療するかの足掛かりになることを期待させる論文。

Preprintのときは題名に「メトホルミン」が入っていたが、publishされた論文ではそれが消えている。過度にメトホルミンへの期待を煽ってはいけないという出版元の配慮だろうか。論文の中の図では逆にメトホルミンが強調されている。

『2020年12月30日から2022年1月28日まで(アルファからデルタ、オミクロンにかけての時期) Bramanteらは3つの内服薬(メトホルミン、イベルメクチン、フルボキサミン抗うつ薬))をアメリカのコロナの患者に試した。それぞれの薬は患者・医師・その他の関係者とコンタクトをとることなく、ランダムに患者に届けられた。

対象は30歳から85歳の過体重または肥満を有するもので、コロナ感染の症状が出てから7日以内、陽性反応が出てから3日以内に薬剤が配達されるようにした。300日までの毎月のフォローアップ、医師からのlong COVIDの診断の有無がわかる記録が行われた。

メトホルミンの投与方法:14日間内服。初日500㎎、次の4日間500㎎X2回、残りの9日間は朝に500㎎、夜に1000㎎内服(日本人でこの量はキツイか)。

1125人が参加に同意。564人がメトホルミン群、561人がプラセボ群。平均年齢45歳、56%が女性、7%が妊娠中。発症から内服までの平均値5日間。47%が発症から4日以内に内服開始。

参加者の8.4%がlong COVIDと診断。メトホルミン群の6.3%、プラセボ群の10.6%がlong COVIDと診断された。メトホルミン群のプラセボ群に対するリスク回避率は42%(プラセボ群に対するハザード比0.59, 95%CI 0.39-0.89, p=0.012)。各種薬剤を組み合わせて内服する群もあったが、その回避率も同等だった(メトホルミン以外の薬剤は無効)。メトホルミンを3日以内に開始した人たちではさらにlong COVID回避率は高かった(64%, プラセボ群に対するハザード比0.37, 95%CI 0.15-0.95)。

サブグループ解析で すべてのサブグループでメトホルミンが有効性を示す傾向を認めたが、有意差は女性、BMI30以上、3日以内の服薬開始、45歳未満、ワクチン未接種者に認められた。

ディスカッション:メトホルミン投与群で急性期症状も軽減されていた(これはすでに知られている。それをこの試験でも確認した)。

このCOVID-OUT試験はERでのメトホルミンの処方の可否、もうすでにlong COVIDになってしまった人へのメトホルミンの効果について決定的な指標にはならない。さらに次の指針作成、次の研究につなげていく必要がある。

この試験でいくつかのlong COVIDのリスク因子が明らかになった(女性11.1% vs. 男性4.9%、ワクチン接種歴あり6.6% vs. ワクチン接種歴なし10.5%)。2回以上ワクチン接種した人のうち57人しかlong COVIDにならなかった。

この試験では 日常で遭遇する状況をふまえて 妊婦、授乳中の人を除外することは、わざとしないようにした(イベルメクチン、フルボキサミン投与群には入れないようにした)。』

 

筆者らがディスカッションにも書いているように、皆が知りたいのは、すでにコロナ後遺症になってしまった人に対するメトホルミンの効果なのではないか。

これまでの多くの研究室でコロナを含めた多くの疾患に対して行われてきた研究の結果は、慢性的な細胞の変性や慢性炎症に対してメトホルミンが有効かもしれない、メトホルミンがコロナによって破壊された細胞の再生を起こすかもしれない、という可能性を示している。そして今回の論文は、コロナ後遺症という症候群に対して 目的が違う方法であったとしても、メトホルミンが有効だったということを示した。

極論を言う。コロナの急性期に起きている反応(炎症や細胞の破壊)と慢性期、後遺症として残っている症状を起こしている反応(炎症や細胞の破壊)は全く別のものであるということはあり得ない。慢性期(後遺症の時期)の反応は、コロナ急性期の反応の延長線上にある。であれば、コロナ急性期に使って、急性期の反応とその後の反応を抑えることができたメトホルミンは、慢性期、コロナ後遺症の時期に使っても効果がある(はずだ)。

あとは、いつ始まるかわからない 始まるかどうかもわからない 「発症後のコロナ後遺症に対するメトホルミンの臨床試験」 の結果を待ち続けるか、ということになる。

コロナ後遺症としての頻拍と神経障害(inappropriate sinus tachycardiaという病気)

いつも元気そうに振舞っている30歳代。コロナ感染後、咳とか息苦しさなどの症状がやっとなおったあとも頻脈と動悸があってつらいという。

彼女は、2~3の循環器内科の医院・病院をまわって、一通り検査をされた後 異常ない・少し脈が速いだけといわれて、最後の病院で心不全の初期投与量のような少量のβブロッカーを処方されて帰ってきた。症状が変わらないので次はお前が何とかしろとのこと。

そこで彼女の状態について検索していて(いつものように病歴からbing AI検索)見つけたのが以下の論文。Inappropriate sinus tachycardia(IST;不適切な洞性頻拍)という病気はコロナ以前からあったらしいが、聞いたことがない。それがこの論文では200人のコロナ後遺症患者のうち 40 (20%) が IST の基準を満たした と言っている。コロナ後遺症の患者を診察することはあるが、彼女のはなしを聞くまであまりこの「動悸」という症状について気にしていなかった。というか、呼吸器症状に合併する症状くらいの認識だった。以前にもひとり動悸と頻脈を訴える患者はいたのだが(この患者も循環器内科を受診して特に治療もなく帰されていた)、ほかにもいくつも症状があったので他の症状に紛れてしまっていた。

ISTの定義は、原因のない洞性頻拍(安静時心拍100を超える、または24時間平均心拍数が90を超える)で動悸を伴うというもの。彼女のアップルウォッチで確認した安静時の心拍数が80台後半から90台で この病院でホルター心電図もやっていないので、厳密な意味でISTの診断には至っていないが、学会で発表するわけでもないしISTとして良いだろう。

lia Aranyó, et. al. Inappropriate sinus tachycardia in post-COVID-19 syndrome. Scientific Reports 12, 298 (07 January 2022)

2020年6月から12月の間(日本では第2波から第3波、まだ死亡率も高い頃)にスペインの大学病院のコロナ後遺症ユニットに紹介された全患者のうち初診時に安静時心拍数100以上の患者の前向き研究。対照は「コロナ感染後完全に回復した患者」と「コロナに感染していない人」。

『同ユニット受診患者200人のうち40人がISTの診断基準を満たした。
平均年齢40.1 ± 10歳、85%が女性、83%が軽症COVID-19
運動耐容能が低下している。
心エコー異常、炎症反応、 心筋障害、低酸素血症のすべてを認めない。

24時間心拍モニターにおいて心拍変動パラメーターの低下が認められる(以下のパラメーターのうちPNN50とHFは副交感神経による影響の特異的なパラメーター。VLFとLFは交感神経と副交感神経の両方の影響を受ける、とされる)。

Time-domain parameters(平均RR間隔、心拍間隔変動の標準偏差(SDNN, msec)、近接心拍間隔が50msec以上異なる心拍の割合(PNN50, %)):
daytime pNN50 (3.2 ± 3 vs. 10.5 ± 8 vs. 17.3 ± 10.0, p < 0.001) 
daytime SDNN (95.0 ± 25 vs. 121.5 ± 34 vs. 138.1 ± 25, p < 0.001)
(「コロナ後IST」vs.「コロナ感染後完全に回復した患者」vs.「コロナに感染していない人」)

Frequency-domain parameters(very low frequency (VLF; 0.003–0.04 Hz), low frequency (LF; 0.04–0.15 Hz), and high frequency (HF; 0.15–0.40 Hz) bands)(なんの周波数なのかわからないが):
VLF (1463.1 ± 538 vs. 2415.7 ± 1361 vs. 3931 ± 2194, p < 0.001),
LF (670.2 ± 380 vs. 1093.2 ± 878 vs. 1801.5 ± 800, p < 0.001)
HF (246.0 ± 179 vs. 463.7 ± 295 vs. 1048.5 ± 570, p < 0.001).

すべての心拍変動パラメーターがISTの患者で低下している。特にpNN50とHFが低下しているので、副交感神経トーンが減弱していることを示している。

結論:COVID後遺症としてのISTは、副交感神経機能の低下による心臓自律神経系の不均衡によるものと思われる。

ディスカッション:感染後の自律神経失調は他のウイルス感染でも報告されている。Denervation、慢性感染による組織障害、過剰な免疫反応など、どのようなメカニズムで起きているかは不明。自律神経系ばかりでなく神経系全般に対するコロナウイルスの影響も多く報告されている。そのメカニズムとしては、直接的な脳への感染、神経細胞への感染から血管炎、炎症反応・免疫反応の増強など間接的な影響など いろいろ考えられている。』

彼女らは「コロナ感染後完全に回復した患者」でも心拍変動パラメーターが低下していることについてあまり触れていないが、この論文はISTになった患者だけでなくCOVID感染者で高率に自律神経系の障害が起きている可能性を示している。

コロナ後遺症として非常にバラエティーに富んだ神経疾患が報告されているが、コロナは神経系にかなり親和性の高いウイルスなのかもしれない。インフルエンザでこのようなことはほとんど聞かない。

さらに、もう一歩話を進めて、コロナ後によく我々呼吸器科医が遭遇する「息苦しさ」(多くは検査しても何も異常は検出されない)も神経系または自律神経系の障害なのかもしれない。これが慢性感染や慢性炎症によるものなのであれば、発症して時間が経過しているとしても対処法はあるはず。

もう一点。ホルター心電図の解析業者には心拍のゆらぎの解析とその意味合いについての解説を行うようにしてもらいたい。この論文で行われている心拍の解析はそれほど高度なものではないように思える。それでコロナ後遺症の診断ができるかもしれないのだから。

対話型AIは診療に使える?(Bing AIに高トリグリセリド血症対応を聞いてみた。)

最近は、bing AIをただの検索ツールとして使っている。

自分としてはちょっと予想外の結果が出たので載せる。知っている人はこんなの常識だよと馬鹿にするかもしれないが。

中性脂肪コレステロールが そこそこ高いが どうしたらいいだろうという質問である。一般内科をやっていると健診データを持って よくこういうひとが来るが、これは私自身のデータを基にした質問である(最近、職員検診があって、その結果にショックを受けた)。

 

入力:What are the treatment options for middle-aged men with hypertriglyceridemia and mild hypercholesterolemia?

( 60歳を過ぎて中年男性というのは詐欺だが、気分はまだ中年。)

 

Bing: According to web search results, there are several treatment options for middle-aged men with hypertriglyceridemia and mild hypercholesterolemia. In adults with mild-to-moderate hypertriglyceridemia, clinicians should routinely assess and treat secondary treatable causes such as diet, physical activity, obesity, metabolic syndrome, and reduction or cessation of medications that elevate triglyceride levels1. Statins are usually the first-line treatment for atherosclerotic cardiovascular disease risk reduction1Patients with triglyceride levels between ≥150 mg/dL and <500 mg/dL whose low-density lipoprotein cholesterol is treated adequately with statins (at “maximally tolerated“ doses) and have either prior cardiovascular disease or diabetes mellitus along with at least 2 additional cardiovascular disease risk factors should be considered for added icosapent ethyl treatment to further reduce their cardiovascular disease risk1Fibrates, niacin, and other approved agents or agents under development are also reviewed in detail1.

Is there anything else you would like to know?

詳細情報:

  1. org 2. jacc.org 3. ncbi.nlm.nih.gov 4. pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

中性脂肪(以下TG)を下げるならフィブラート系薬剤だろう、その使い分けあたりを聞いてみようとしていたのに違った反応だった(こういう予想外の回答の方が心ときめく)。

 

入力:fibratesは、500に満たない軽度の高中性脂肪血症は使わないのか?

 

Bing: According to web search results, fibrates are generally not indicated for mild to moderate hypertriglyceridemia (150-499 mg/dL). Instead, statin therapy, lifestyle changes, and glycemic control are prioritized1. Is there anything else you would like to know?

詳細情報:

  1. ncbi.nlm.nih.gov 2. nejm.org 3. endocrinepractice.org 4. pubmed.ncbi.nlm.nih.gov 5. pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

ということで、TG 500以上の場合以外は、フィブラート系薬の適応がない。フィブラート系の薬の宣伝をよく見るが、我々のレベルでは使うことがほぼない薬の宣伝を見ていたことになる。

 

最初の質問の方で回答のリファレンスに使われていたのは3つのガイドライン。ひとつめはアクセス権がないと見れない。ふたつめは2021年ACC心血管イベントリスク低減のためのエキスパートコンセンサス(2021 ACC Expert Consensus Decision Pathway on the Management of ASCVD Risk Reduction in Patients With Persistent Hypertriglyceridemia)。3つめはドイツのガイドラインのようだった。ふたつめと3つめはほぼ同じ内容。たぶん、3つとも内容は同じか。心血管イベントリスク低減が目標でTGを下げることが目標ではない。至極真っ当な目標設定。

 

以下、自分の学習の記録として、ACCエキスパートコンセンサスの要約(Bingに要約を作ってもらおうと何度かトライしたがうまくいかなかった。質問の仕方が下手なだけかもしれないが)。不確かな要約なので原文で確認することをお勧め。

 

TGの上昇はレムナント-コレステロール(以下C)の上昇、HDL-Cの低下、LDL-Cの上昇とその形態の変化に伴う。

 

TGの上昇は、動脈硬化性心血管疾患(以下ASCVD)の「リスク増強因子」である。

 

10年以内のASCVDのリスクが高い中等症以下の高TG血症では、食事・生活スタイルの改善を行ったのち、続発性TG血症の除外、原因の治療(糖尿病・甲状腺機能低下症など)、とスタチン治療を行う。

500 mg/dl以上(特に1000 mg/dl以上)では、それに関連する膵炎のリスクを下げるために TGを下げる治療を行う。

 

1. 軽症~中等症(糖尿病なし、40歳以上、ASCVDなし):10年以内ASCVDリスク評価      ① 低リスク(<5%):ダイエット、ときどき10年リスク評価

   ② 中リスク(5%~<20%):スタチン治療開始または強化

   ③ 高リスク(≧20%):強化スタチン治療を開始または強化

 

2. 軽症~中等症(糖尿病あり、40歳以上、ASCVDなし)

   ① 50歳未満または50歳以上でASCVD増悪リスクなし:LDL-C値に応じて治療

   ② 50歳以上でリスク因子あり:EPA内服を考える

 

3. 軽症~中等症(150~499)(ASCVDあり)

  ① LDL-C<70:EPA内服を考える。

  ② LDL-C 70~99:強化スタチン療法の後 EPA内服を考える。または、EPA内服を考える。

  ③ LDL-C≧100:強化スタチン療法 の後 EPA内服を考える。

 

4.TG 500~999

   ① ダイエット・糖尿病治療の適正化を行ったのち、low fat dietまたはvery low fat diet、また、フィブラート製剤を考慮

   ② リスクまたは糖尿病がある場合、スタチン治療ののち、low fat dietまたはvery low fat diet、スタチン治療の強化、また、膵炎のリスクを減らす目的で、フィブラート製剤、EPA等オメガ-3を考慮

 

5.TG≧1000

  Very low fat diet

     (糖尿病がある場合)血糖コントロール

  膵炎のリスクを減らす目的で、フィブラート製剤、EPA等オメガ-3を投与

     スタチン治療を考慮 

 

私の場合、中性脂肪に関しては内服薬は必要ないという判断になる。

対話型AIは診療に使える?(実践編1)

どのようにbing AIを使えばよいかわからないというひとでも使ってみれば実感が得られると思う。実際に使ってみた例を示す。「対話型」なので ちょっと長いけど我慢して読んでね。

コロナ罹患後におしりの痛みと両下肢のしびれ、咳をしたときに両足に強い痛みが走るという患者さんの例。

前のブログで書いたように患者さんの症状の経過を書いて、それを英語に翻訳してbingに張り付ける。

入力: A woman in her 40s. She contracted COVID-19 on May XX. On May YY(9日後), she suddenly developed pain in her sacrum and buttocks and numbness in both her lower extremities, as well as severe neuropathic pain in both lower extremities when coughing. What kind of condition should be considered?

Bing: Based on web search results, one condition that should be considered is COVID-19-related neuropathic pain. Neuropathic pain is a common symptom in long COVID and has been reported as a complication of COVID-1912. The pooled prevalence of COVID-19-related neuropathic pain was 6.7% for hospitalized patients during the acute phase and 34.3% for long COVID patients1. However, it is important to consult with a medical professional for an accurate diagnosis and treatment plan.
詳細情報:
1.    ncbi.nlm.nih.gov 2. ncbi.nlm.nih.gov 3. ncbi.nlm.nih.gov— (アンダーライン部分はbing回答そのまま)

入力: この症状がCOVID-19と無関係だとしたら、どのような疾患を考えるべきか?
(「COVID関連」で症状をひとくくりにされてしまったので、聞き直してみた。2回目の質問からは日本語でも bingが勝手に英語での検索を続けてくれる。)

Bing: If the symptoms are unrelated to COVID-19, there are several conditions that could be considered. One possibility is sacroiliitis, which is a painful condition that affects one or both sacroiliac joints. These joints sit where the lower spine and pelvis meet. Sacroiliitis can cause pain and stiffness in the buttocks or lower back, and the pain might go down one or both legs1. Another possibility is peripheral neuropathy, which is a result of damage to the nerves located outside of the brain and spinal cord (peripheral nerves) and often causes weakness, numbness, and pain, usually in the hands and feet2. It is important to consult with a medical professional for an accurate diagnosis and treatment plan.
詳細情報:
1. mayoclinic.org 2. mayoclinic.org 3. bing.com 4. mayoclinic.org

入力: この患者は両側の下肢に同じようにしびれと疼痛を感じている。どのような疾患を考えるべきか?
(両側性の症状なんだけどそれでいいの?と聞き直した)

Bing: If the patient is experiencing numbness and pain in both lower extremities, one condition that could be considered is peripheral neuropathy. Peripheral neuropathy is a result of damage to the nerves located outside of the brain and spinal cord (peripheral nerves) and often causes weakness, numbness, and pain, usually in the hands and feet1. It is important to consult with a medical professional for an accurate diagnosis and treatment plan.
詳細情報:
1.    mayoclinic.org 2. bing.com 3. aafp.org 4. mayoclinic.org

入力: この患者は臀部の痛みが強い。これも両側性で、持続的な痛みである。それに対して両側下肢の痛みは咳嗽時のみであり、稲妻が走るような痛みである。どのような疾患か?

Bing: If the patient is experiencing strong bilateral buttocks pain that is persistent and lightning-like pain in both lower extremities when coughing, one condition that could be considered is piriformis syndrome. Piriformis syndrome is a rare neuromuscular disorder that occurs when the sciatic nerve is compressed by the piriformis muscle in the buttocks. The sciatic nerve is the longest nerve in the body and runs from the lower back, through both sides of the waist, buttocks, legs, and feet1. It is important to consult with a medical professional for an accurate diagnosis and treatment plan.
詳細情報:
1. bing.com 2. mayoclinic.org 3. mayoclinic.org 4. mayoclinic.org

入力: piriformis syndromeは両側の臀部と下肢に対称性の症状を出現させるか?
(piriformis syndromeという病名を出してきた。これも再度両側性はあるの?と聞き直している。我ながらしつこい)

Bing: Piriformis syndrome can cause pain or numbness in the buttock and down the back of the leg. It can happen on one side of the body or both1. It occurs when the piriformis muscle presses on the sciatic nerve. The condition may be caused by injury, swelling, muscle spasms or scar tissue in the piriformis1. It is important to consult with a medical professional for an accurate diagnosis and treatment plan.
詳細情報:
1. my.clevelandclinic.org 2. bing.com 3. ncbi.nlm.nih.gov 4. ninds.nih.gov+2 その他

入力: この患者は整形外科と神経内科のうちどちらの診療科を受診すべきだろうか?

Bing: It would be a good idea for the patient to consult with both an orthopedist and a neurologist. An orthopedist specializes in the treatment of the musculoskeletal system, including bones, joints, muscles, tendons, and ligaments. A neurologist specializes in the treatment of disorders of the nervous system, including the brain, spinal cord, and nerves. Both specialists can provide valuable insights and work together to diagnose and treat the patient’s condition.

患者とふたりで迷った末、整形外科もある総合病院の神経内科に紹介状を書いた。神経内科を受診した結果、市中の整形外科医院に行けと言われて紹介状を渡されたとのことで、整形外科を受診せずに当方に戻ってきた。

患者の尻を触ると両側の梨状筋のあたりに左右対称に圧痛があったので、両側性のpiriformis syndromeと考えて(どの程度珍しい疾患なのかわからないが)、今度はbingにその治療法について聞いてみた。あたらしく聞くことになるので、英文になおして質問。

入力: A woman in her 40s. She contracted COVID-19 on May XX. On May YY, she suddenly developed pain in her sacrum and buttocks and numbness in both her lower extremities, as well as severe neuropathic pain in both lower extremities when coughing. She initially complained of pain around the sacrum, but now has tenderness around bilateral piriformis, so we diagnosed her with piriformis syndrome. Her symptoms for now are bilateral pain around piriformis, numbness in bilateral lower extremities, and neuropathic pain while coughing in bilateral lower extremities. Please give us five treatment options for her.

Bing: According to the current web page context, a woman has been diagnosed with piriformis syndrome. Some treatment options for piriformis syndrome that I found from web search results include:
1.    Rest: Taking a few days of rest can help alleviate symptoms1.
2.    Physical therapy: Physical therapy that focuses on stretching and strengthening the piriformis muscle can help improve mobility in the hip and reduce pain1.
3.    Medication: Nonsteroidal anti-inflammatory drugs (NSAIDs) or muscle relaxants can help relieve pain1.
4.    Massage: Massage therapy can be used as a complementary treatment to help alleviate pain1.
5.    Home exercises: Performing home exercises to stretch or strengthen the piriformis muscle can also help alleviate symptoms1.
It’s important to consult with a healthcare provider to determine the best course of treatment for the individual case.
詳細情報:
1. my.clevelandclinic.org 2. bing.com 3. pubmed.ncbi.nlm.nih.gov 4. spine-health.com+2 その他

入力: Is there a relationship between her symptoms and COVID infection?

Bing: I’m sorry, but I couldn’t find any information from my web search results that suggests a direct relationship between COVID-19 and piriformis syndrome. It’s important to consult with a healthcare provider for more information on this topic.

詳細情報:
1. frontiersin.org 2. journals.physiology.org 3. verywellhealth.com 4. ncbi.nlm.nih.gov+2 その他

もう一度COVIDとの関係についてbingに聞いてみたが、わからないという反応だった。よく聞くと、彼女は両手のしびれもあると言っていたので、すべての症状を一元的に説明しようとするとやはりCOVIDとの関係を考えるべきではないかと思う。

最後にダメ押し質問

入力: Tell me five treatment options for numbness in both legs, one of her symptoms.

Bing: According to my web search results, some treatment options for long-term numbness in the legs and feet include:
1.    Antidepressants: Some antidepressants, such as duloxetine and milnacipran, have been approved for the treatment of fibromyalgia1.
2.    Corticosteroids: Corticosteroids can help reduce inflammation and alleviate symptoms1.
3.    Gabapentin and pregabalin: These medications can help relieve nerve pain1.
4.    Physical therapy: Physical therapy can help improve mobility and reduce pain2.
5.    Self-care: Practicing good posture, avoiding sitting for long periods of time, and engaging in regular exercise can help alleviate symptoms1.
It’s important to consult with a healthcare provider to determine the best course of treatment for the individual case.
詳細情報:
1. medicalnewstoday.com 2. hopkinsmedicine.org 3. healthgrades.com+1 その他

最終的に今回の診断が正しいかはわからない。けど、いい線いっているのではないだろうか。彼女には、しばらくの安静を指示するとともに、NSAIDsとmuscle relaxants、神経因性疼痛に対する治療薬、それとCOVID後の慢性炎症に効果を示す薬(すこし薬剤の種類が多くなってしまったが)を処方した。その後、症状はかなり良くなったと言われた。

たぶん一つ一つの症状からネット検索していたらここまでたどり着けない。2年前まで呼吸器内科の患者しか診ていなかった医者としては上出来。

Bingは、毎度のようにこれはプロの判断ではないからね、きちんと専門家にコンサルトしなさいよ、と言ってくる。こちらもそのようにbingの情報を扱わなければならない。

しかし、いまやbingなしの診療はあり得ない。ということがお判りいただけたと思う。

対話型AIは診療に使える?(2)

対話型AIは診断において非常に重要である。そして資金のない田舎の小規模病院の質を大きく改善する可能性がある。

対話型AIは医療AIである。と言ってしまう。

医療AIで進んでいるのは画像診断の分野だろう。多くの画像を機械学習して診断の精度を上げる。使ったことはないが、話題としてネット上でよく見る。

次にネット上でみるのが問診システム。患者さんの訴えを入力していって、疾患の可能性をコンピュータに示してもらおうという試みだ。いくつかすでに市販されているが、導入費用・維持費用が高くて手が出ない。コロナが流行り始めてしばらくして 対面/接触しないでこのAI問診だけでコロナを診断しようという試みがいくつもあったが、うまくいったのだろうか?現場の感覚としては、ウイルスの型が変わるたびに症状の表れ方が少しずつ変化するCOVID-19に対して問診システムがうまく機能するようには思えない。それよりはCOVIDの感染様式を十分理解して必要な感染対策を行った者が おおざっぱに症状を聞いたうえでPCRなり抗原検査なりの検体をとってしまったほうが安全で簡単である。

コロナ以外の疾患においても慣れた者が問診をしてしまった方がたぶん早い。今の問診システムが外来看護師の予診の省力化をうたっているのもそのへんの限界があるからだろう。しかし、「医者の問診技術を習得した音声認識/対話型AI」になってくればはなしは別だ。すべての必要な情報を患者さんから聞き出し、鑑別診断から検査スケジュール・治療方針まで一気にコンピュータがやってくれてしまうことになる。ここまで来ると医者はいらなくなる。一部の患者さんは自分で高度の判断ができるようになってしまうかもしれない。

今の問診システムには「医者の問診技術を習得した」「音声認識」という部分が足りていないと思う(最新の問診システムを知らないで言っているので間違っていたらごめんなさい。どちらにしても高価なので試すこともできないし)。そして一方の対話型AIはすでに動き始めている。そしてなによりもこれが無料で利用できるという点が大きい。

いずれにせよ対話型AIは問診システムの重要なパーツになる。

コロナ禍の文脈で故宇沢弘文氏の『社会的共通資本』の理論が取り上げられるのをときどき見かけた。そのなかで医療は環境・社会インフラ・教育などと同様に社会的共通資本であるとされている。この考え方が好きだ。そのような気概をもっていなかの小規模病院でコロナ診療を行った。それなのに いなかの小規模病院は資金力がなくDXからどんどん取り残されていく。問診システムは各科医師が揃っている大きな総合病院よりも数人の医者でまわしている田舎の小規模病院の方に必要なシステムだ。一方でいなかの小規模病院にはそれを導入する資金力がない。医療AIシステムを作って販売する企業にお金儲けをするなとは言わないが、国は社会的共通資本であるいなかの小規模病院に責任をもってそれらを配るべきだ。

そしてもう一つの大きな懸念。対話型AIも『社会的共通資本』の一部である。いま存在してしまっている対話型AIを囲い込んで有料にしたりしないでほしい。また、これから対話型AIを使った不適切な事例とか犯罪とか出てくると思うが、規制したりしないでほしい。対話型AIは診断において非常に重要である。そして資金のない田舎の小規模病院の質を大きく改善する可能性がある。

対話型AIは診療に使える?

対話型AIの出現は、資金もなく新しいシステムの導入など考えられないような地方病院で孤立しがちな医師の診療環境を大きく変える。

最近新たに総合診療をはじめた田舎の医者にとっては問診から診断や治療に結びつける方法が絶対的に欲しい。

以前勤めていた病院ではわからないことがあれば他科の医者や研修医に聞けばよかったし、立場を利用してそれらの医者に患者さんを押し付けることもできた。状況は変わった。しかし、いまさら、すべての内科・耳鼻科・整形外科等々を勉強しなおす気にはならないし、そんなことをしていたらこちらの寿命が尽きてしまう。必要な部分を勉強はしているがそれでも追いつかない。問診システムも出回ってきているが、外来看護師の省力化が目的だったり、あとは、とても高価で手に入らないシステムだ。こっちに金がないことがわかって業者からも見放された。ユバル・ノア・ハラリが21 Lessonsで示したような自動診断システムが病気の診断をしてくれる(ある種の医者はいらなくなる)という方向にはいまのところ向かっていない。

chatGPTが出た直後から 医学・医療の領域で使えるかなどの議論が盛んにおこなわれている(Haug CJ et al. NEJM 2023/3/30)。プライバシーや信頼性についての議論もあるが、chatGPTの類いが鑑別診断に使えるという報告もすでに出ている(Hirosawa T et al. Int J Environ Res Public Health 2023, Feb)。そこで、安直ではあるが、使ってみた、というはなし。いままで(かなり)狭い専門領域の患者さんしか診てこなかった医者には絶対的に重要なはなし。

chatGPTの設定に失敗してしまったので、ウエブブラウザーMicrosoft Edge上で作動するbingAIのはなしになる。bingは使用者登録が必要ないし、また、引用したホームページ情報がついてきて、そのホームページをすぐに確認することができる。それにchatGPTより新しい言語AIモデルが使われている(とどこかに書いてあったような)。

以下、1か月弱bing使用した経験からのbingについての総論:
①参照した二つの論文でも示しているように診断や治療法を知りたい場合、なるべく詳細な患者情報(患者が特定できないように記載する必要はある)を医学雑誌に症例報告を投稿するように記して、診断が知りたい場合は鑑別診断の候補を教えてください、とする。さらに、続いて、治療法を聞いても良いし、続けていろいろな疑問点について聞いていっても良い。5つくらいのオプションを教えて、ってやると5個の箇条書きになって帰ってくる。

②日本語で質問を入力すると日本語のウェブサイトを検索してくる。英語で質問すると英語のウェブサイトから検索してくるようである(間違えて最初に日本語の単語が入ったまま、英語で質問したら日本語のサイト検索の情報だったので、最初の文が日本語か英語かで検索するサイトを決めているように思える)。情報量もその質も英語のほうが圧倒的に良いので英語で質問したほうが良いと思う。私はそれほど英語が上手でもないので、日本語をグーグル翻訳で英語に直して、すこしその英文を自分で手直ししてからbingに持ってくるという作業をしているが、それなりの価値はある。

③上にも書いたようにbingの場合、参照したウェブサイトの情報がリファレンスとしてついてくるので これも役に立つ。というか、内容の信頼性を確認するためにリファレンスを確認すべき。natureの総論から専門家でない人が一般人向けに書いた記事まで いろいろな情報が混ざっている。これまでのところ英語で一番引用してくるのはMayo Clinicがホームページ上で公開している一般市民向け医学情報。信頼性は問題ないが、あくまで一般市民向け。
 変な回答も参照しているウェブサイトを見に行くと役に立つこともある(しつこいようだがこれがbingの良いところ)。例えば、日本語で発作性心房細動の薬物治療について尋ねたところ、不整脈にまったく効果のなさそうなエナラプリルとプラバスタチンを勧めてきた。これのリファレンスは日本循環器学会/日本不整脈学会合同の2020年版 不整脈薬物治療ガイドライン。そのなかで、上記薬剤は「かつてアップストリーム治療として心房細動抑制作用を期待され」た薬剤として記載されていた。しかし、一回の質問でこのガイドラインにたどり着けたのはbingのおかげ。

対話型AIの出現は、資金もなく新しいシステムの導入など考えられないような地方病院で孤立しがちな医師の診療環境を大きく変える。