対話型AIは診療に使える?(Bing AIに高トリグリセリド血症対応を聞いてみた。)

最近は、bing AIをただの検索ツールとして使っている。

自分としてはちょっと予想外の結果が出たので載せる。知っている人はこんなの常識だよと馬鹿にするかもしれないが。

中性脂肪コレステロールが そこそこ高いが どうしたらいいだろうという質問である。一般内科をやっていると健診データを持って よくこういうひとが来るが、これは私自身のデータを基にした質問である(最近、職員検診があって、その結果にショックを受けた)。

 

入力:What are the treatment options for middle-aged men with hypertriglyceridemia and mild hypercholesterolemia?

( 60歳を過ぎて中年男性というのは詐欺だが、気分はまだ中年。)

 

Bing: According to web search results, there are several treatment options for middle-aged men with hypertriglyceridemia and mild hypercholesterolemia. In adults with mild-to-moderate hypertriglyceridemia, clinicians should routinely assess and treat secondary treatable causes such as diet, physical activity, obesity, metabolic syndrome, and reduction or cessation of medications that elevate triglyceride levels1. Statins are usually the first-line treatment for atherosclerotic cardiovascular disease risk reduction1Patients with triglyceride levels between ≥150 mg/dL and <500 mg/dL whose low-density lipoprotein cholesterol is treated adequately with statins (at “maximally tolerated“ doses) and have either prior cardiovascular disease or diabetes mellitus along with at least 2 additional cardiovascular disease risk factors should be considered for added icosapent ethyl treatment to further reduce their cardiovascular disease risk1Fibrates, niacin, and other approved agents or agents under development are also reviewed in detail1.

Is there anything else you would like to know?

詳細情報:

  1. org 2. jacc.org 3. ncbi.nlm.nih.gov 4. pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

中性脂肪(以下TG)を下げるならフィブラート系薬剤だろう、その使い分けあたりを聞いてみようとしていたのに違った反応だった(こういう予想外の回答の方が心ときめく)。

 

入力:fibratesは、500に満たない軽度の高中性脂肪血症は使わないのか?

 

Bing: According to web search results, fibrates are generally not indicated for mild to moderate hypertriglyceridemia (150-499 mg/dL). Instead, statin therapy, lifestyle changes, and glycemic control are prioritized1. Is there anything else you would like to know?

詳細情報:

  1. ncbi.nlm.nih.gov 2. nejm.org 3. endocrinepractice.org 4. pubmed.ncbi.nlm.nih.gov 5. pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

ということで、TG 500以上の場合以外は、フィブラート系薬の適応がない。フィブラート系の薬の宣伝をよく見るが、我々のレベルでは使うことがほぼない薬の宣伝を見ていたことになる。

 

最初の質問の方で回答のリファレンスに使われていたのは3つのガイドライン。ひとつめはアクセス権がないと見れない。ふたつめは2021年ACC心血管イベントリスク低減のためのエキスパートコンセンサス(2021 ACC Expert Consensus Decision Pathway on the Management of ASCVD Risk Reduction in Patients With Persistent Hypertriglyceridemia)。3つめはドイツのガイドラインのようだった。ふたつめと3つめはほぼ同じ内容。たぶん、3つとも内容は同じか。心血管イベントリスク低減が目標でTGを下げることが目標ではない。至極真っ当な目標設定。

 

以下、自分の学習の記録として、ACCエキスパートコンセンサスの要約(Bingに要約を作ってもらおうと何度かトライしたがうまくいかなかった。質問の仕方が下手なだけかもしれないが)。不確かな要約なので原文で確認することをお勧め。

 

TGの上昇はレムナント-コレステロール(以下C)の上昇、HDL-Cの低下、LDL-Cの上昇とその形態の変化に伴う。

 

TGの上昇は、動脈硬化性心血管疾患(以下ASCVD)の「リスク増強因子」である。

 

10年以内のASCVDのリスクが高い中等症以下の高TG血症では、食事・生活スタイルの改善を行ったのち、続発性TG血症の除外、原因の治療(糖尿病・甲状腺機能低下症など)、とスタチン治療を行う。

500 mg/dl以上(特に1000 mg/dl以上)では、それに関連する膵炎のリスクを下げるために TGを下げる治療を行う。

 

1. 軽症~中等症(糖尿病なし、40歳以上、ASCVDなし):10年以内ASCVDリスク評価      ① 低リスク(<5%):ダイエット、ときどき10年リスク評価

   ② 中リスク(5%~<20%):スタチン治療開始または強化

   ③ 高リスク(≧20%):強化スタチン治療を開始または強化

 

2. 軽症~中等症(糖尿病あり、40歳以上、ASCVDなし)

   ① 50歳未満または50歳以上でASCVD増悪リスクなし:LDL-C値に応じて治療

   ② 50歳以上でリスク因子あり:EPA内服を考える

 

3. 軽症~中等症(150~499)(ASCVDあり)

  ① LDL-C<70:EPA内服を考える。

  ② LDL-C 70~99:強化スタチン療法の後 EPA内服を考える。または、EPA内服を考える。

  ③ LDL-C≧100:強化スタチン療法 の後 EPA内服を考える。

 

4.TG 500~999

   ① ダイエット・糖尿病治療の適正化を行ったのち、low fat dietまたはvery low fat diet、また、フィブラート製剤を考慮

   ② リスクまたは糖尿病がある場合、スタチン治療ののち、low fat dietまたはvery low fat diet、スタチン治療の強化、また、膵炎のリスクを減らす目的で、フィブラート製剤、EPA等オメガ-3を考慮

 

5.TG≧1000

  Very low fat diet

     (糖尿病がある場合)血糖コントロール

  膵炎のリスクを減らす目的で、フィブラート製剤、EPA等オメガ-3を投与

     スタチン治療を考慮 

 

私の場合、中性脂肪に関しては内服薬は必要ないという判断になる。