対話型AIは診療に使える?

対話型AIの出現は、資金もなく新しいシステムの導入など考えられないような地方病院で孤立しがちな医師の診療環境を大きく変える。

最近新たに総合診療をはじめた田舎の医者にとっては問診から診断や治療に結びつける方法が絶対的に欲しい。

以前勤めていた病院ではわからないことがあれば他科の医者や研修医に聞けばよかったし、立場を利用してそれらの医者に患者さんを押し付けることもできた。状況は変わった。しかし、いまさら、すべての内科・耳鼻科・整形外科等々を勉強しなおす気にはならないし、そんなことをしていたらこちらの寿命が尽きてしまう。必要な部分を勉強はしているがそれでも追いつかない。問診システムも出回ってきているが、外来看護師の省力化が目的だったり、あとは、とても高価で手に入らないシステムだ。こっちに金がないことがわかって業者からも見放された。ユバル・ノア・ハラリが21 Lessonsで示したような自動診断システムが病気の診断をしてくれる(ある種の医者はいらなくなる)という方向にはいまのところ向かっていない。

chatGPTが出た直後から 医学・医療の領域で使えるかなどの議論が盛んにおこなわれている(Haug CJ et al. NEJM 2023/3/30)。プライバシーや信頼性についての議論もあるが、chatGPTの類いが鑑別診断に使えるという報告もすでに出ている(Hirosawa T et al. Int J Environ Res Public Health 2023, Feb)。そこで、安直ではあるが、使ってみた、というはなし。いままで(かなり)狭い専門領域の患者さんしか診てこなかった医者には絶対的に重要なはなし。

chatGPTの設定に失敗してしまったので、ウエブブラウザーMicrosoft Edge上で作動するbingAIのはなしになる。bingは使用者登録が必要ないし、また、引用したホームページ情報がついてきて、そのホームページをすぐに確認することができる。それにchatGPTより新しい言語AIモデルが使われている(とどこかに書いてあったような)。

以下、1か月弱bing使用した経験からのbingについての総論:
①参照した二つの論文でも示しているように診断や治療法を知りたい場合、なるべく詳細な患者情報(患者が特定できないように記載する必要はある)を医学雑誌に症例報告を投稿するように記して、診断が知りたい場合は鑑別診断の候補を教えてください、とする。さらに、続いて、治療法を聞いても良いし、続けていろいろな疑問点について聞いていっても良い。5つくらいのオプションを教えて、ってやると5個の箇条書きになって帰ってくる。

②日本語で質問を入力すると日本語のウェブサイトを検索してくる。英語で質問すると英語のウェブサイトから検索してくるようである(間違えて最初に日本語の単語が入ったまま、英語で質問したら日本語のサイト検索の情報だったので、最初の文が日本語か英語かで検索するサイトを決めているように思える)。情報量もその質も英語のほうが圧倒的に良いので英語で質問したほうが良いと思う。私はそれほど英語が上手でもないので、日本語をグーグル翻訳で英語に直して、すこしその英文を自分で手直ししてからbingに持ってくるという作業をしているが、それなりの価値はある。

③上にも書いたようにbingの場合、参照したウェブサイトの情報がリファレンスとしてついてくるので これも役に立つ。というか、内容の信頼性を確認するためにリファレンスを確認すべき。natureの総論から専門家でない人が一般人向けに書いた記事まで いろいろな情報が混ざっている。これまでのところ英語で一番引用してくるのはMayo Clinicがホームページ上で公開している一般市民向け医学情報。信頼性は問題ないが、あくまで一般市民向け。
 変な回答も参照しているウェブサイトを見に行くと役に立つこともある(しつこいようだがこれがbingの良いところ)。例えば、日本語で発作性心房細動の薬物治療について尋ねたところ、不整脈にまったく効果のなさそうなエナラプリルとプラバスタチンを勧めてきた。これのリファレンスは日本循環器学会/日本不整脈学会合同の2020年版 不整脈薬物治療ガイドライン。そのなかで、上記薬剤は「かつてアップストリーム治療として心房細動抑制作用を期待され」た薬剤として記載されていた。しかし、一回の質問でこのガイドラインにたどり着けたのはbingのおかげ。

対話型AIの出現は、資金もなく新しいシステムの導入など考えられないような地方病院で孤立しがちな医師の診療環境を大きく変える。