60過ぎの勤務医が田舎町にセカンドハウスを建てる。(2) 「農地」とは?

妻が探してきた土地は、約23mX約124m(2900平方メートル、883坪)という超細長い「畑」。しばらく耕作されていない野原(草刈りはされている)でまわりの土地には太陽光発電の装置が一面に設置されていたりする、隣の細長い土地は荒れ地で近くの工場の従業員の駐車場になっている。そういう土地だ。これが一般のネットの住宅情報に掲載された。それが掲載されるや妻はすぐにそれを見つけたのだ。住宅地でも上下水道の配管がないところがある町内で、上下水道の配管が来ている。これが、建築条件なし、980万円で売りに出されたのだった。

土地を購入する際に不動産業者に言われたことが、この町の場合、土地を購入してから1年以内に家を建てなければならないという決まりがあり、土地を購入するのに際して、建築計画を示さなければならない、短い間に、建築会社を決めて設計図を完成させなければならない、というものだった。このことがあって、契約書を交わして、手付金を払ってから、家の設計まで一気に進んだ。

ところが、このあとが詐欺のようなはなしになっていく。

最初は、このとんでもなく広い土地で家庭菜園でもすればよいと能天気に考えていたが、そんなはなしではすまないことがあとからわかった(というか、普通の不動産業者なら最初からわかっていたことではないかと思うのだが)。そもそも「田」「畑」という地目の土地は「農家」しか所有することができない。そして「農家」になるためには、

  • 農地のすべてを効率的に利用すること
  • 必要な農作業に常時従事すること(原則年間150日以上)
  • 一定の面積を経営すること(下限面積50a)
  • 周辺の農地利用に支障を与えない利用方法であること

が必要であり、雑草の管理などもしなければならないことになっている(Soil mag. 1号、p60)(1アール:1辺10mの正方形の面積、メートル法の単位(非SI単位)。1坪:中国で生まれた歩の別名、6尺四方の面積。1a = 30坪)。そのうえで、さらに「農家」としての実績を積んだうえで町の農業委員会に「農家」として認めてもらう必要がある。そこでやっと農地が手に入るという仕組みになっている。妻は「知り合いの公認会計士も同じ町内に田んぼを買って、農業もやっている。一緒に農家になればいいじゃない」と気軽に言うが、広い土地で“家庭菜園”という一瞬描いた夢は吹っ飛んだ。そこまで農業をやるつもりはないし、農家をやるには、最低条件として、この土地の倍の面積の農地を購入しなければならない、どこかに弟子入りして農家としての実績も積まなくてはならない。

 

農地法第3条

農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない

農地法第4条

農地を農地以外のものにする者は、政令で定めるところにより、都道府県知事の許可(中略)を受けなければならない

 とんでもないものに手を出してしまったことにあとから気が付いた。