コロナ後遺症(その2)咳と咽喉頭異常感症(迷走神経障害)

コロナ後遺症として咳、息苦しさと一緒に咽喉頭異常感症の症状を訴える患者さんは多い。治療として関わらなくても、いつも痰が絡んでいる感じを言ってくる人は多い。CTを撮影したときに「のどに何かありますよね」と聞いてくる人も一人だけではない。

喉頭異常感症は、「のどに何かつかえている感じ」「いつも痰がのどにあって苦しい」などのどの“閉そく感”を訴えることが多い病気だ。のどの腫瘍や強い炎症、胃酸の逆流、アレルギーなどの異常がないことを確認、または治療することによっても症状は改善しないもの。不定愁訴のように扱われるし、精神疾患に分類されることもある。

前の病院では呼吸器内科医として長年このような咽喉頭異常感症の患者さんと付き合ってきた。以前は、この症状の患者さんたちはそれほど多くなかった。呼吸器内科の外来をやっていて、年に数人程度だったろうか。

喉頭異常感症の患者さんにとってその症状は結構つらいものだ。程度の差はあれ窒息するかもしれないという恐怖と戦っている。正直言って、これらの患者さんの症状をそれほど良くしてあげられたという実感はない。十年以上にわたって外来に通ってきていた患者さんもいたが、少しだけよくなった気がする程度で終了することがほとんどだった。

コロナ後はそんなことではすまなくなってきている。

論文を探すと、コロナ後遺症の6.7%が咽喉頭異常感症(Globus pharynges)があるというものもあるし、下に紹介するコロナ後の慢性咳嗽についての論文では、対象とする患者さんのうち56.3%がGlobus pharyngesだと言っているし、その他の上気道症状も合わせるとほぼ全員が何らかの上気道症状がある。私が多いなあと感じているのは事実なのだ。もう不定愁訴だなんて寝ぼけたことを言っている場合じゃない。何とか効果的な治療を探さなければ(というか、私の他のブログを読んでいただいている方なら、私が何を処方しようと考えているかはお分かりかと思うが)。

ということで、以下の論文。こちらでGlobus pharynges多いよね、何か神経が絡んでいるよねという思いを持って探してくる論文なので、十分バイアスを持って読んでもらってよい。一流誌だが因果関係を言うには難あり。

Patricia García-Vicente et. al. Chronic cough in post-COVID syndrome: Laryngeal electromyography findings in vagus nerve neuropathy. PLoS One. 2023 Mar 30

『単一施設の前向き記述式観察研究。コロナ感染後(オミクロン・デルタ以前)12週間咳が続いている32歳から85歳までの患者38名が対象。各種耳鼻科的な検査と声帯を引っ張る筋肉(甲状披裂筋と輪状甲状筋)の筋電図検査を行った。知覚神経障害を調べる検査法はない。

慢性咳嗽の患者のうちの耳鼻科領域での合併症状は、発声障害(運動神経障害)24名(63.2%)、咽喉頭異常感症(知覚神経障害)20名(56.3%)、喉頭痙攣(運動)4名(10.5%)、嚥下痛(知覚)4名(10.5%)、嚥下障害(運動)4名(10.5%)、嗅覚味覚障害(知覚)4名(10.5%)など。運動神経障害の症状と知覚神経障害の症状が同じような頻度で認められた。全身症状では倦怠感24名(63.2%)が最も多かった。

31.6%の患者で、喉頭鏡で接触時に咳反射が起きないなどの知覚神経障害の兆候を認めた。

筋電図検査(運動神経障害の検査)では、29名(76.3%)が異常を示した。内訳は、慢性脱神経パターン24名(63.2%)、急性脱神経パターン3名(7.9%)、筋障害パターン2名(5.3%)。(本文中にはどのように診断するのかは書いてなかったような気がする)

44.7%の患者が、心拍異常、不安、倦怠感、胃腸症状などの自律神経障害症状を合併していた。筋電図検査で異常を示した患者に多かった。

以上は、咳や咽喉頭異常感症などの原因として、ウイルス感染後迷走神経ニューロパチーが関与している可能性を示している(直接の因果関係を示したものではない。一般的な病因論として)。神経系に対して有効な治療が慢性咳嗽の治療として有効である可能性がある。(慢性咳嗽についての論文なので咽喉頭異常感症に対する治療(の可能性)についての記載はない。)』

コロナ後遺症の患者さんの1年以上続く強い咳に対してリフヌアが効いたのは、病因論的にも正しかったか?

以前に紹介した「inappropriate sinus tachycardia」もそうだったし、何らかの神経系の障害が絡んでいる確率が高い。だとすれば、神経系を保護し、その炎症を抑え、その再生を促すような治療が、動悸や上気道症状、息苦しさなどの症状を訴える患者さんに対しても必要だということになる。